この記事は、天文学や哲学の論文として書かれたわけではありません。惑星系についての学問がどのように人間の暮らしに関わっているかを示そうとしたものに過ぎません。
天文学は、最古の科学の一つです。自らの意識を獲得したその時から、人類は、世界が変化・感覚・色・動き・匂い・味・音に満ちていること、その世界はもっと大きな何かの中の一部であることを知覚していました。また、古代エジプトやヌビアの遺跡を始めとする先史時代の文化が、天文学にまつわる品物を残していることも有名です。バビロニア、ギリシア、中国、インド、イラン、マヤなどの古代文明は、夜空の体系的な観測を行っていました。そして、世界中のどの地域のどの人々も、空と気象現象を観測しているのです。
天文学は私たちに、人生についての視点を、そして他の学問にはない現実についての視点を与えてくれます。天文学は、私たちが大宇宙の一部であるということを受け入れさせてくれます。そう、たとえ自覚がなくとも、人間はこの驚くべき宇宙の一部なのです。そして天文学は、私たちが宇宙を受け入れ、その受容を愛するようにしてくれるのです。
この学問がもたらしてくれる可能性を全て見つけ出したいなら、まずは太陽系の軌道を通して、ある種の旅に出ましょう。そして、その仕組みを知っていたとしても、それぞれの知覚が知的興奮に踊るのを感じてみましょう。
ほとんどの天文学者が認めるとおり、太陽系は、太陽を中心とし、その周囲の7個の惑星と2個の準惑星(※訳注:いずれも古代の天文学による個数)からなる複合体です。そして、これらの天体はいくつかの動きをしています。最も重要な2つが自転(自らの地軸を中心とした回転)、そして公転(太陽を周回する動き)です。この周回運動は楕円の軌道を描き、これがその惑星の1年を意味します。もちろん、太陽からの距離によって、それぞれの惑星の1周にかかる時間は異なってきます。最も近い水星が58日で1周する一方、準惑星の冥王星は周回に90,000日かかります。
さて、太陽系に関するこのちょっとした特殊性を念頭に置いて、地球の軌道にしたがって旅をしましょう。この旅は太陽を周回する楕円軌道を描きます。「私たちの太陽」と言ったほうがいいかもしれません。太陽は私たちの宇宙で最も明るい星ではないからです。私たちの近くの空には、もっと明るいと思われる星が7つあります。天の川銀河は4,000億個とも言われる星を擁し、太陽のような星も多くあります。太陽は、その天の川銀河のふちの一つの星に過ぎません。しかし、銀河はこの規模です……。これはつまり、銀河全体を巡ってそれぞれの星に数秒だけ滞在すると仮定して、人生の全ての日・時間を星巡りだけに費やしたとしても147世代12,675年かかるということなのです。つまり、私たちの宇宙はとても巨大なのです。
そして地球は、この宇宙の闇に浮かぶ小さな青いビー玉にすぎません……。私たちは、宇宙の海の浜辺の砂の一粒なのです。
そして、普段自らを創造物の頂点と考えている人も、何十億もの太陽の輝きが銀河を形成し、他の銀河の中にも豊富な生命、もしかすると文明が存在しているという考えには賛成してもらえるでしょう。
無限の宇宙における自らの小ささを意識することで、人類に根源的な問いが生まれました。私は何者か? 私はどのようにして私たりえているのか? 私はここで何をしているのか、何のために私は存在するのか? そして何より、私の目にする現実はどこから来るのか? この最後の問いは、世界と人間の起源に関わるものであり、恐らくは哲学史の中で最も議論を呼んだものでしょう。なぜなら、この問いは万物を創造した超越的存在を連想させるからです。これで、天文学と哲学の親密な関係が見えてきましたね。知恵を求める方法は異なっていても、こうした問いに対する答えを見つける必要性は共通しているのです。
天文学者は、哲学者にもなり得ます。そのためには、知識と知恵の探究者であること、自然現象を心の目で見ることが必要です。したがって、あらゆる観測と認識が自分自身を知る助けになるのです。
私たちの太陽を周回する地球の旅は、知ってのとおり、広大な宇宙の中の唯一の現象ではありません。これまで知られている惑星や、その他たくさんの天体も、それぞれ自分の旅をしており、それらの運動には驚くべき協調が見られます。これまで考えられてこなかった事かもしれませんが、惑星や天体はまるで宇宙の中のダンスのように動き回るのです。天文学の研究は、こうした理解の助けとなります。
魂の目で宇宙の不思議を見るためには、現実への視点を変える必要があります。太陽の強さ・不変性、惑星系の協調性・秩序・不変性という視点を発育することは、自然の一部として人類の目的としなければなりません。これこそ、哲学がやっていることなのです。哲学は、自己への理解から始まる自己制御を通して、私たちが秩序・強さ・不変性を得る助けとなってくれるのです……。
元記事リンク
https://library.acropolis.org/philosophy-and-astronomy-the-invisible-link/