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翼のある蛇

ナタリヤ・ペトレーヴィチ著・長谷川涼子訳

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古代社会における物語は、時の流れとともに進化しました。それらの物語に含まれる象徴は多様で複雑であり、意味の追究は決して簡単な仕事ではありません。

古代メキシコの伝説は、世界の創造と破壊の大きなサイクルを語っています。その昔、新しい夜明け、つまり新しい時代が始まろうとしていました。しかし、神の犠牲により生まれた太陽が動こうとしなかったので、太陽を動かすため、翼ある蛇は神々を犠牲にする役割を引き受けました。それでも足りなかったので、彼は立ち上がり、ありったけの力で、自分の洞穴のように広い胸にたくさんの空気を吸い込むと、全力で太陽へ吹きつけました。すると太陽も月も動き始め、今なお同じ軌道を回っているのです。

新しい夜明けが起こり、新しい時代が始まろうとしていましたが、大地には生き物がいませんでした。そこで翼ある蛇は、大地を満たすため、人類を創る役目を引き受けました。彼は危険な死者の国へ降り、先祖たちの骨を返してくれるよう死の王に頼みました。とても困難な任務を果たした後も骨を受け取れなかったので、翼ある蛇は骨を盗み、地底の神の復讐をどうにかくぐり抜けました。翼ある蛇は始まりの場所へ行き、そこで母なる女神、つまり女の蛇の助けを得ました。つまり、現在まで生きている人類は、先祖たちの骨と神々の血が混ざって生まれたのです。翼ある蛇は人類に、トウモロコシの実、織物やモザイクの技術、音楽と踊り、病気を治す科学、工芸、知識、時間、天国の星々、暦、祈り、儀式をもたらしました。

メソアメリカ文化において、翼ある蛇は、様々な名前を持っており、また共通の特徴のある様々な物語に登場します。トルテカ人やアステカ人などナワ人の人々は、彼を「ケツァルコアトル」(ナワトル語の“quetzal” =「鳥」 と “coatl”=「蛇」)と呼びました。キチェ族のマヤ人は「ククマッツ」、ユカテコ族のマヤ人は「ククルカン」と呼びました。翼ある蛇は、紀元前100年ごろから絵や彫像、彫刻に現れました。1200年ごろから、翼ある蛇は人の形で描かれるようになりました。メソアメリカの主要都市は、翼ある蛇の絵を掲げた寺院の周囲に築かれました。鳥でもあり蛇でもあるため、彼は、地上世界に対する天上世界の調和と支配、つまり魂が物質世界を高みに導く能力を象徴しています。

アステカ人のケツァルコアトルは、創造神でもあり、聖なる都市トゥーラを統治する賢人でもあります。神として、ケツァルコアトルは豊穣と命そのものと結びつけられています。ケツァルコアトルのひとつの姿であるエエカトルは風の神で、生き物の息の中に現れ、その息は命をもたらす雨雲を呼びます。ケツァルコアトルは、万物の源である一対の原初の創造神の四人の息子の一人であり、新しいサイクルになるといつも、兄弟たちとともに宇宙を創造するのです。

神話においては、ケツァルコアトルとテスカトリポカ(戦いと変化の神とされます)の二人の兄弟の話がよく語られます。二人はある時は敵同士、ある時は味方同士となります。二人は繰り返し戦い、その戦いが続く間に世界が創られては滅びます。したがって、これ以前に四つの世界が存在し、いま私たちが生きているのは五つめの世界です。ケツァルコアトルは二つめの世界の太陽であり、人々を深く愛していました。

アステカの伝説には、古代の聖都トゥーラの有名な指導者だった、羽毛のある蛇人間の物語もあります。その名はセ・アカトル・トピルツィン・ケツァルコアトル(一の葦の年※、我らが王子、翼ある蛇)でした。彼は、初めは勇猛な戦士として、次に深遠な知恵と強い道徳心を持つ僧侶として名を知られたとされています。指導者となった時、彼は自身の責任の度合いに応じて創造神の役割を体現し、政治の中心としてトゥーラを建設しました。彼は人々に科学と道徳を教え、優れた法を定め、土地を耕す最適な方法を示しました。トピルツィンは人間の生贄を禁じ、ピラミッドなど儀式のための素晴らしい建物を建てること、平和な共存を進めることで称賛されました。

トピルツィンは、僧侶と指導者の卓越した手本となりました。後に、この地域の僧侶はみな、トピルツィンの化身とみなされました。

ケツァルコアトルの治世では誰もが幸せでしたが、ライバルであるテスカトリポカはその失墜を企てていました。テスカトリポカは人々に多くの災害をもたらし、ついにトピルツィンを悪行に追い込みました。そして、この指導者は深い悲しみとともに、流浪の身に追いやられたのです。湾岸に着いたとき、トピルツィンは自らの身を焼き、天に昇って金星となりました。別の言い伝えでは、彼は再び戻ってくると誓い、蛇のいかだに乗って東へ航海したとされています。

トピルツィン・ケツァルコアトルの帰還にまつわる言い伝えは、希望、そして人間の魂の内なる成長の呼び声とも読み取れるでしょう。これによって、人間は、この世界の中で示された自らの能力の最高の部分を発揮して、天上と地上を結びつけ、自らの人生の創造者となるのです。

※注:暦の日付。誕生年に該当する。


元記事URL
https://library.acropolis.org/the-feathered-serpent/

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